【本のレビュー】『filmmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術』

記事まとめ

  • 洋書の翻訳本である「filmmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術 : 原則とその破り方(グスタボ・メルカード著)」の感想
  • どのような本か?
    • 動画撮影、特に、映画制作における撮影に関する本
    • さまざまな構図について、その意味撮影方法について説明されている
  • 本書の内容を一言で表現すると?
    • 「撮影における構図には、意味をもたせましょう!」
  • どのような人が読むべきか?
    • 動画撮影における構図に悩む初心者
  • 少し辛口な感想
    • 人物を撮影する際の構図の話が多いため、風景映像を作成する人には参考する部分は少ないと思う(私はその一人)

 

私は今まで、一眼レフカメラやシネマカメラをほぼ使ったことがない状況で、「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K(略称、BMPCC4K)」というシネマカメラを購入しました。


 


当然、映画制作や撮影に関する学校にも通ったことはありません。

観光地などで、自分の記録のためにスマートフォンで撮影する程度のことしかやってきておりませんでした。

 

そのような中、2020年7月に開催される予定だった東京オリンピックに向けて、「JAPAN」というキーワードが流行っていくということを予想し、日本に関する動画をYouTubeに上げていく計画を立てました。

  • 結局、2021年5月現在、新型コロナウイルスの影響で、東京オリンピックは開催されず、外出できないため日本を紹介する動画制作もできていない状況ですが‥。

 

そのようなときに購入した本が、「filmmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術 : 原則とその破り方」です。

 

もともと映画が好きで、特に、ハリウッド映画をよく見ていたので、「映画のシーンに学ぶ」というタイトルに惹かれて購入しました。

また、ただの観光動画だとインパクトがないため、できれば映画のワンシーンのような動画を制作したいという思いもありましたので、本書を参考にしたいと考えました。

 

結論から言うと、本書は、どちらかというと、「人物」を撮影するための構図が多かったです。

私のような、観光地を撮影する、風景を撮影するという用途には、あまり合致していないです。

ただ、「撮影」に関する考え方は学べましたし、映画における構図の作り方やその意味を学ぶことができ、映画をより楽しめるようになりました。

 

観光動画ではなく、映画を作りたくなっていきました。

 

本記事では、本書の購入を検討している人にお役に立てればと思い、内容のレビューを行いたいと思います。


目次

1. 「filmmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術 : 原則とその破り方」のレビュー

本書は、撮影における構図について、映画のシーン(写真で抜き出し)を紹介しながら説明しています。

 

簡単に言うと、「このシーンは、主人公が悩んでいる状況を演出するために、こういった構図で撮られている」というような説明です。

 

本書を読んで一番印象に残ったことは、「撮影においては、意味を考えて構図を選択する」ということです。

ただ単純に、「カッコいいからこの構図」「他の映画作品で印象に残ったらから真似してこの構図」というやり方はNGだということです。

 

1-1. 構図

本書で紹介されている構図は、以下です。

  1. 超クローズアップ
  2. クローズアップ
  3. ミディアムクローズアップ
  4. ミディアムショット
  5. ミディアムロングショット
  6. ロングショット
  7. 超ロングショット
  8. 肩越しショット
  9. エスタブリッシングショット
  10. 主観ショット
  11. ツーショット
  12. グループショット
  13. ダッチアングルショット
  14. 象徴ショット
  15. 抽象ショット
  16. マクロショット
  17. ズームショット
  18. パンショット
  19. ティルトショット
  20. ドリーショット
  21. ドリーズームショット
  22. トラッキングショット
  23. ステディカムショット
  24. クレーンショット
  25. シークエンスショット

 

それぞれについて、6ページで説明されていきます。

  1. 構図の例として抜き出された映画のワンシーンの写真
  2. 構図の説明
    • この構図は他の構図とどのように違うのか
    • どういう撮影をする時にこの構図を使うと良いのか
    • 1ページ目に示した写真が、映画のどういうシーンで、映画監督はどういう表現をしたかったのか
  3. 別の映画のワンシーンを抜き出して、より詳しい構図の説明
    • 写真の中のこの部分は「三分割法」に従っている
    • 被写界深度を浅くすることで、構図の中で重要な領域にピントを合わせている
  4. (同上)
  5. その構図の撮影の仕方
    • レンズは、「標準」「広角」「望遠」のどれを使えば良いか
    • ライティング(光)はどのようなことを気を付けて行えばよいか
  6. 今までの原則を破った場合
    • 原則をあえて破るというテクニックの話

 

2ページ目の構図の説明は以下のようなものです。

肩越しショットを撮影するカメラのアングルをコントロールすることで、観客とキャラクターとの一体感のレベルを操作することもできます。
前景のキャラクターの視点に近いと、観客はメインキャラクターに自身を重ね合わせることになり、感情的な結びつきと一体感が強まります。
‥(省略)‥
ベンの窮地に完全に共感させ、彼の困惑した反応をより強く受け止めさせています。

filmmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方

 

原則を破るというテクニック

本書の特徴の一つが、構図の原則から外れたテクニックを紹介することだと思います。

これにより、逆に、構図の原則側の方をより深く理解できるようになっています。

 

例えば、上記引用文の、「肩越しショット」という構図では、前景の人(画面のこちら側の人)の肩が写り、その肩の先に後景の人(話し相手の人。奥側の人)が映るショットです。

 

この場合、原則的には、肩の人ではなく、奥側の人にピントを合わせます。

通常は、奥側の人が画面側を向いて話していたり、話を聞いていたり、「表情」が見えますからね。

 

ただ、「ゴモラ(原題:Gomorra、2008年)」という映画では、肩の人にピントを合わせて、奥側の人をぼかしています

これは以下のような理由のようです。

この定番の構図と利用法を無視した肩越しショットにより、この映画で行われているいかがわしい地下取引そしてナポリを拠点とする犯罪組織カモッラに対する不安感と不吉な予感がかきたてられます

fimmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方

 

原則をあえて破ることで、通常とは違うような感情を視聴者に与えるという方法です。

不安感や不吉な予感を与えるテクニックです。

 

このように、映画においては、視聴者の感情をうまく操作するために、構図を利用しているのだということがよく理解できました。

 

1-2. 構図には意味を持たせること!

本書を読んで一番大事だと感じたことは、「構図には意味を持たせないといけない」ということです。

 

これまでの初心者の私は、以下のような気持ちで撮影してきました。

  • なんとなくカッコいい
  • Instagramで「いいね」を押してもらえそう
  • 記録として残したいだけ

 

本書を読んで、上記はダメだと理解しました。

本書は映画の撮影の話ですが、観光地や風景映像を撮影する際も、意味がないとダメだと思います。

 

その1つが、私は感情/感想だと思っています。

現地で感じた、「広いなぁ」「海が青いなぁ」「砂浜が綺麗だなぁ」「人が多くてゴミゴミして嫌だなぁ」というような感情を構図にのせて撮影すべきだという考え方に変わりました。

 

駆け出し映画監督のミス

本書は映画の話なので、「映画制作における意味がない構図」の話が記載されていました。

 

ある駆け出し監督が制作した短編映画の試写会での出来事です。

  • 上映後、監督を迎えた質疑応答があった
  • 質問者が「カウチに座っていた男の演技はトラヴィス・ビックルを意識したのですか?」と質問した
  • 監督は「なぜそんなことを聞くのか?」と困惑して尋ね返した
  • 質問者が「男のすぐ後ろに『タクシードライバー』の大型ポスターがあったのでそれがストーリーの一部だと思ったからです」と返した
  • 監督は「いや、あのポスターはたまたまあそこに貼ってあっただけです」と返した

 

上記の他にも、部屋の中に写っていたTVゲームや部屋の散らかり具合について質問があったのですが、監督はどれもストーリーに関係ないという回答だったようです。

 

本書の著者は以下のように述べています。

つまり、ショットの構図と、そのショットがこの映画のストーリーの中で果たす役割との間に、まったく関連性がないのです。
この監督が犯した最大の過ちは、ストーリーの意味を反映させた構図をつくらなかったことです。結局はストーリーとは無関係であると判明した細々としたものをびっしりと詰め込んだ、視覚情報満載の冒頭シーンをフレームに収めたことで、監督が観客に伝えようとしていたポイントが伝わらなかったのです。

fimmaker's eye 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術:原則とその破り方

 

実はこの駆け出しの監督は、「妻の手を握る夫の手が小刻みに震えていることから、はじめての喧嘩を避けようと必死になっている」ということを映画に含めています。

 

しかし、上記のような、ストーリーに関係ない情報をフレームに収めてしまったため、映画を見た人が「小刻みに震える手」という表現をつかむことができなかったということでした。

 

ストーリーや伝えたいことが大事

よく言われているのですが、「ストーリーが一番大事(Story is King.)」だということだと思います。

 

  1. 映画や動画で伝えたいことがある
  2. それをストーリーとして構成する
  3. それに沿って撮影する
    • ここで構図を意識する
  4. 作品に仕上げる

 

撮影方法や構図は、あくまでも、伝えたいことを伝えるためのテクニックであり、それ自身をアピールするものではないと分かりました。

 

私は、他人のYouTube動画をよく見るのですが、
「こんなにカッコいい風景や観光地の動画なのに、なぜ再生数が少ないんだろう」
と感じることがあります。

 

これはおそらく、言い方が良くないかもしれないですが、「ただカッコいいだけだから」ではないかと思い始めました。

 

そういった動画は、基本的には、撮影スキルや編集スキルをアピールしている動画であることが多い印象のため、それで間違っていないと思います。

ただ、再生数が少ないのは、おそらく、物語になっていない(ストーリーがない)ためではないかと思いました。

 

ただカッコいい映像を撮るのではなく、伝えたいことを伝えようとして撮影すべきなんだろうと思っています。

 

具体的に考えているのは以下のとおりです。

 

・日本の城を紹介したいと思い現地に着いた

・城が建っていた当時の時代(昔)を思わせるような印象を受けた
・この場合は、城の周りの現代のもの(家や電柱など)は構図に含めない

 

・もしくは、城が現代に一体化しているように感じた
・この場合は、城の周りの現代のものを含めて撮影し、住宅地などに溶け込んでいる構図にする

 

以上のようなことを考えています。

 

僕は観光地で撮影するため、映画のようなストーリー性は考えていません。

それよりは、現地で感じたことを撮影(構図)により表現することが大事だと思っています。

2. 終わりに

私はどちらかというと、映画ではなく風景動画を制作予定ですが、その場合、本書で紹介されている構図で、いくつかは私には利用できそうにありませんでした。

 

  • ミディアムクローズアップ
    • 人物向けのショットであり、建物向けに応用できそうにない
  • ツーショット/グループショット
    • 人物向けのショットのため
  • ダッチアングルショット/象徴ショット/抽象ショット
    • 映画で使えるショットだが、観光地撮影では使えそうにない
  • マクロショット
    • マクロレンズを持っていないため
  • ドリーズームショット
    • テクニックレベルが高い
    • 一人ではできそうにない
  • トラッキングショット
    • テクニックレベルが高い
  • ステディカムショット/クレーンショット/シークエンスショット
    • 機材(クレーンなど)が必要なため

 

上記を除くと、本書で紹介されている25構図のうち、13構図が使えそうです。

ほぼ半分は使わないであろう構図でした。

 

ちょっともったいない気がしますが、自身の撮影ではなく、他人の撮影、つまり、映画作品を楽しむための勉強にもなりました。

それぞれの映画の中で、どういう意図があってその構図にしているのかがよく理解できました。

今後、新しい映画や構図を見るたびに、自分で考えるようになると思いますので、映画におけるそういう楽しみ方が増えました。

 

撮影初心者だけでなく、映画好きにもオススメの一冊だと思います。

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